河津浩二選手 エルズベルグレポート

□レース名 Erzberg Rodeo(エルヅベルグロデオ)
□日時   平成24年6月10日
□場所   オーストリア・アイゼンエルツ エルツベルグ鉱山
□路面   ウェット(後半は土砂降りでした)
□クラス  なし
□車両   2013KTM300XC-W
□使用タイヤ リアVE33
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●erzverg rodeo(エルツベルグロデオ)
オーストリア中西部に位置し、標高2千m級の山々に囲まれた静かな都市 Eisenerz(アイゼンエルツ)。6月10日、そこで現在も稼働中の「エルツベルグ鉱山」を舞台に、世界一、いや宇宙一過酷と言われているレース「Erzvberg rodeo」が開催されました。巨大な崖、岩山、急角度のウッズで、何百台ものマシンが競い合うのです。(詳しくは、youtube見て下さい)。この大会の為、人口5千ほどの小さな街には、毎年何万もの観客が押し寄せています。ユーロ圏の移動が容易になったとはいえ、これだけの観客動員数のイベントがあるとは、日本とはスケールが違います。
このレースは、世界42カ国から3,000名余ものエントリーから始まります。書類選考で1,800名となった後、2日間の予選で500名までふるい落とされ、最終日の決勝へと進みます。その中で完走者は、例年10人前後。コースの難易度、2%を切る完走率の厳しさも最難関。今年で17回目の開催となるこの大会、今回参加する日本人は2人。日本の誇るトップライダー、田中太一選手と私でした。
●マシン
今回使用したマシンは、KTM300XC-W。このエルツベルグでは、半数がこのマシンをチョイスしているだろうと言われている、このレースでの大人気車種です。2st300㏄が何故良いのか、それはこの特殊なコースに理由があります。鉱山の残土を押し固めた路面が多い為、ザクザクのヒルクライムが多く、100メートル級のヒルクライムではかなりパワーを喰われている感じです。又、助走のないヒルクライム、頂上付近が切り立ったの登り等では瞬発力が必要ですし、ガレ場の登りでは排気量の大きいトルクが必要です。そう言った点が、このマシンが人気となる理由でしょう。しかも私のモデルは、まだ発売されていない2013モデル。今回KTMサポートを受けることができた関係で、贅沢なマシンに乗ることができました。乗った完走は…もちろん最高!ただ、決勝で装着するリヤタイヤ「VE33」は、他のタイヤよりもブロックが大きく高い為、ザクザクの路面でこの排気量の負荷をかけた場合、消耗が激しいとも懸念されました。
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●プロローグ Day1
まずは予選の「プロローグラン」。ここで1,300台が落選します。もし勝ち抜かなければ、私のエルツベルグは10分少々で終わることとなります。午前8時にゲートオープン、20秒間隔1台づつのスタートで10時間、計1,800台のマシンが走り続ける、恐るべきスケールの予選が始まりました。コースは、鉱山の作業道フラットダートを利用した、超ハイスピードレース。バンクやシケインの続く序盤のテクニカルラインを抜けると、幅約10~20mのフルスロットルダートが連続しています。
予選のタイヤは、サポートの都合上、KTM側が用意していたものを使用しました。しかし、大型ダンプが押しつけて硬化した、カチカチの路面コンディションからも「BR99」を持ち込めばよかった、次回は考えたいと思います。
コースは標高差500メートル以上の山頂へ、10数分で一気に駆け上がる為に温度差も大きく、頂上付近は肌寒さも感じる程でした。コースの脇は完全に崖、並大抵の神経ではタイムを出せません。攻めれば攻めるほど死の恐怖を感じるであろう、強烈な予選コース。計測タイムの10秒差内には、100名ほどがひしめいていますから、アクセルを緩めれば一気に50台位から抜かれる計算です、そう思えば簡単にアクセルを戻せません。私も半泣き状態でアクセルを開け続けましたが、それでも全開走行中、一台のイタリアンライダーに抜かれました。ストレートで全開中(140㎞位?)にですよ、どんだけスピード出てるんでしょうか。又、今回ゼッケン1番で臨んだED界のトップスター、デビッド・ナイト。彼は後半のコーナーでコースアウトしてクラッシュ、リタイヤとなりました。後刻、彼のヘルメットカメラを回収したところ、空が2回映っていたそうです。縦に2回転…、その位攻めないと、彼らでもトップは取れないのでしょう。
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●プロローグ Day2
2日間の2度走りで行われる予選。私は初日、慣れないマシン&ミスコースで思ったように走れず、速くも予選落ちのカラータイマーが点灯してしまいます。よってDay1終了後、延々と続く予選レースの脇を黙々と歩き続け、コースの再確認。バイクで十数分のコースは、なんと歩くと5時間余。予選よりもヘトヘトになりました。しかしその甲斐あって、Day2はミスコースもなく、まずまずの走りで終了。納得して予選を終え、KTMパドックにてしばしの休息。そんな時飛び込んできたニュースは、なんとDay2キャンセル!予選途中から降雨が激しくなり、二日目はキャンセルになったとのこと。Day1のみの順位で決勝を行う、との主催者発表でした。ということは、予選落ちか…とも思いきや、なんと312位通過!自己嫌悪の走りでしたが、どうにか決勝には引っかかりました、神様ありがとう!しかし、計5時間歩いたコース下見は、全くの無駄。この不満を、決勝にぶつけなければ。なお、田中太一選手は貫禄の23位通過、サスガです。
●決勝スタート
6月10日、決勝のスタートは正午ちょうど。今年のコースは例年よりも長く、セクションも増えた上に雨模様、過去最強のコンディションとなっていました。又、レース中はネット上でライブ中継もあり、日本中の方が応援して下さいました。スタート位置へは、1時間半前位から移動が始まります。動画で何度も見た、夢にまで見た決勝スタートの広場に立つと、感無量、胸がいっぱいになりました。スタート列は10列中、田中太一選手が1列目で、私が7列目とかなり後方。仕方ない、予選が全てですから。
長い待ち時間の後、ようやく1列目緊張感漂う静寂を振り払うかのように、チェッカーフラッグが大きく振り上げられ、エンジンを始動させてスタート。水溜まりの茶色い飛沫を上げながら、巨大なレッドブルのレプリカを大きく回り込むマシン群。そのまま凄まじいエンジン音をこだまし最初の斜面へと向かいますが、一切誰もアクセルを戻さない。その勢いのまま、10メートル程の砂利の斜面へ飛び込みます。が、中央付近の十数台がスタック、砂利に埋まりますが、腰まで埋まるその砂利の深さに、残りの450人が大きく息を飲みました。その後も、各列順当にスタートが続きますが、4列目で大きなクラッシュ。レースが中断されコースに救急車が入ります。長い待ち時間の後レースは再開されましたが、私の7列目がスタートしたのは既に1列目から30分以上経過した後でした。前方のコースには、既に300台。一体どこまで抜けるのか、自然に焦りが出ます。
動画でよく見るスタート直後の5段ヒルを、他のライダーと競い合いながら登ります。既に渋滞している中、ザクザクでパワーを喰われそうになりながら、300㏄の粘りで登り切ります。その後も無難にヒルクライムを越え、コースは問題のフォレストへと進んでゆきました。
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●エルツの森
日本と全く違うザクザクのヒルクライム、驚くべきはそのスケールの大きさ。100m級のヒルクライムが何本もあり、3速開けっ放しのパワーで一気に登るヒルの長さは、全く経験したことのないコースでした。その後コースは、森の奥へと続きます。広すぎてその一部しか下見できなかった、エルツの森。先の見えないまま挑むしかないヒルや、助走がないヒル等、ギリギリのライディングが続きます。又、下りは基本、急角度。10メートル程垂直に落ちている激下りは、マシンごと転がり落ちるライダーが続出、日本では問題になりそうな場所ばかりでした。
森のコースは極端で、ヒルの角度も険しく、その登り口は常に「渋滞」しています。時には、幅2メートルほどの作業道に、数十台がハンドルが差し込めない程ひしめいています。別ラインは全くナシ、焦りを押さえて仕方なく順番待ち。ようやく通過し先へ進むと、またしても渋滞…。結局合計1時間以上は待ちに待ちました!
しかしiRC「VE33」は、この森でその真価を発揮しました。日本でもハード系レースでは、ライダーから絶大な信頼を得ているVE33。特にウッズでの走破力は、世界の舞台でも同様にその能力を見せつけてくれます。角度のある森の中の登りでは、ラジエターから水蒸気を上げ、全開でリヤタイヤを空転させるマシンが、斜面の至る所に引っかかっています。その中を、滑るウッズをしっかりと噛み込み、マシンを直進させるVE33。滑る木の根が無数に広がる、悩ましいキャンバー移動でも、他のライダーが滑ってコース下へ落ちていく中、VE33は丁寧にグリップ力を保ってくれました。結局私は、森の中でチャンスがあれば他のライダーを抜き続たことで、200台近いライダーを抜くことができました。やはりこのタイヤを持ち込んで本当に良かったと感謝しましたし、又、日本の誇るこのタイヤが世界でも全く引けを取っていないことに驚きました。
日本人が勝ちたいので、このタイヤは海外で販売して欲しくないと思います。
●土砂降りのガレ場
ようやく森を抜けると、次はガレ場の登りです。雨が次第に強くなり、焦りまくっている所に、トドメの渋滞ポイント。岩盤一本ラインに、20台位のマシン。濡れた岩はタイヤのグリップを奪い、その上「ノーヘルプゾーン」で、誰も全く登れません。それでも抜かなければ。私はラインを外し、岩の斜面を登ろうとトライ。しかし、ヘルメット程の岩もろとも、土砂崩れのように下まで滑落してしまいます。いつのまにか、雨は土砂降りに。鉱山の一角で、焦りのトライが続きます。そんな時です、スタッフから残念な告知がありました。降雨が激しくなり、レースは30分切り上げて中止するとのこと。悔しいですが、私の挑戦はこのガレ場で終わりました。
結局、私は最後に通過したチェックポイントで、126位という順位が付いていました。渋滞待ちのおかげで、体力もまだ余裕があっただけに、非常に残念でした。しかし、あの森で200名近いライダーを抜けたのは、日本のGEROライダーも、世界で充分戦えるということを証明できたのではないか、と思います。
もちろん、リヤタイヤの存在も欠かせません。森での活躍は、VE33があってこその結果だと思います。なお、レース後にタイヤを確認したところ、最初に懸念していたブロックの極度の摩耗は無く、角もまだ充分に残っている状態でした。(結局決勝は、2時間少々しか走行していないこともありますが)。ザクザクの登り全開でも、ガレ岩地帯でも、充分に耐えうるブロックです。これでVE33は、世界でも戦えるタイヤであることが証明できたと思います。
本命の日本人、田中太一選手はというと…見事、5位で完走を果たしていました。今大会での完走者は、たったの7名。優勝ジョニー・ウォーカー、2位ドギー・ランプキン、3位ベン・ヘミングウェイと最強カードが続く中、見事な彼のリザルトでした。このレースはTRライダーでないと難しい、とよく言われますが、決してそうじゃない。このレース、日本人は田中タイチしかゴールできない!
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今回、エルツベルグ参戦にあたり応援を頂きました皆さん、こんな私に最大のチャンスを下さったKTMジャパン様、そして、私に最強のタイヤを送って下さったIRC様へ御礼申し上げます。今後も、この大会で日本人がもっと活躍できれば最高、だと思います。
そして、最後に一言「やっぱりVE33は、世界最強!」。