TKOに日本の高橋・和泉が殴り込み! 惜敗を喫しリベンジを誓う
テネシーノックアウト2016
日時:8月21日
会場:アメリカ テネシー州トライアルトレーニングセンター
天候:スコールを交えた快晴
コンディション:ウェット
PHOTO&TEXT:ANIMAL HOUSE
カリフォルニアにおけるマーケットが巨大すぎて、アメリカ南部や東部のオフロードシーンが日本になかなか入ってこないなか、一際異彩を放つ南部テネシーのハードエンデューロが『Tennessee Knockout』通称TKOだ。
C・ウェブら北米を由来とするトップハードエンデューロランカーをはじめとして、C・ヘイカー、M・ブラウンら世界に名だたるライダーが参戦。このたび、iRCが派遣した高橋博・和泉拓、日本のハードエンデューロシーンを代表する二人が北米のハードエンデューロに殴り込みをかけた形。
右:高橋博、左:和泉拓。高橋は2015年G-NETジャパンチャンピオン
現地で「ガミータイヤ(Gummy Tire)」とよばれて、すでに一ジャンルを築いているハードエンデューロ用のソフトコンパウンドタイヤでは、日本におけるオリジンともよべる存在iRC製のix-09wゲコタ。G-NETジャパンで、前後共にゲコタを愛用、開発にも関わってきた二人は、会場のトライアルトレーニングセンターを「まさにゲコタが活躍できる路面だ」とレース前に評している。二人は、Betaジャパンの協力でBeta USAからRR2T300をレンタルし、このレースに臨んだ。
二人の装着するゲコタを載せた荷物が、トラブルによって会場に到着せず、高橋のみが中古のゲコタを逆履きで使用した。和泉は会場で手配できたガミータイヤでの参戦となった。
現地でゲコタに履き替える高橋
日本人参戦を珍しがるギャラリー
パドックを間借りしたBeta USA
ジャパニーズはどこにいっても人気!
TKOのレース形式は、その名の通りノックアウト方式。スタート順番決めのホットラップを含めた4ヒートで、1ヒートずつ上位から選抜されていく。
高橋・和泉はショートコースでタイムトライアルを競うホットラップを順調にこなしたが「思った以上に、路面が滑る」とコメント。30°を超える炎天下のなか、時折スコールが襲う地域柄、苔むしたロックが多いものと思われた。高橋は序盤にミスが目立ち、和泉がタイムを出し、32位/50台という結果。
次のラウンドTKO1は1周15マイルで、1時間のリミット。9つのセクションが追加された本格ハードエンデューロ。このレースで上位25名まで絞り込まれるといった形だ。勢いよくスタートしていった高橋と和泉は、序盤和泉がリードしていく形だったものの、地力の強さで高橋が順位を上げていく。高橋は「年配の人と同じようなスピードで、ゆずりあったりしてバイクを進めましたが、最後には離されてしまった。得意にしているヒルクライムが、TKOではほとんど無かったのが悔やまれます」とのこと。和泉は「とにかく長い、ロックセクションが続いて疲労感も半端じゃない。それに、森の中が暑すぎて危険だ」とジャージをぬいだ状態でゴール。二人とも完走するものの、高橋が26位、和泉が28位とギリギリTKO1を突破ならずという結果になった。
ある意味では、メインのヒートと呼べるTKO2は、強烈なロックステアが連続するテクニカルな15マイル。上位15名が、ファイナルのショートコース35~40分のスクランブルレースを競い、C・ウェブが優勝。日本人二人は惜敗を喫するものの、リベンジを誓う北米遠征となった。
高橋 博
「今回のTKO大会参戦については、おそらく日本中のハードエンデューロファンに注目されたレースだったのではないでしょうか?
僕たちの成績が、日本のハードエンデューロの世界的な位置づけを決める、そんなプレッシャーを薄々感じながら参戦してきました。大会参戦にあたり、全面的にバックアップしていただいているiRCさんがフライトから滞在中のスケジュールまで極めて綿密に計画し、そしてBetaモータージャパン様はUS Betaから借用するバイクの手配をしてくれました。和泉選手と私は何も心配無く、まさに乗る事だけに集中できる環境でした。
かなりスケジュールに余裕をもって会場に入りましたがココはアメリカ、何が起こるか分かりません。そして、その何かが、一番大事な何かが起こってしまったのです。その顛末については、同行していただいたジャーナリスト、ジャンキー稲垣さんの有料コンテンツに事細かく書いてありますので、そちらでぜひチェックしてみてください。しかしながら、何があっても動じない心とトラブル回避術は普段から鍛えていますので、何とか気持ちだけで走りました。
しかし結果は25人枠の予選通過にあと一歩及ばず26位と惜敗でした。この順位から、日本のハードエンデューロはこの程度かと大半の方は思われるでしょうが、今は自分の成績よりそれが一番悔やまれます。しかしながら、6年前にトライアルからエンデューロの世界に転向し、成功するために沢山の失敗から学んできました。世間的な評価とは別に、今回得た経験でまた一回り成長できる気がしています。ホント、勝負の世界は奥深くて面白いです。
いま、世界で通用するためには何が必要か、明確に見えたTKOでした。このような機会を与えていただいて、心の底から私はiRCサポートライダーで良かったなと思っています。そして、沢山の企業や個人の方々にも応援していただきました。本当にありがとうございました!
残る国内戦は、今までとはまた一味違う走りで恩返ししたいと思います」
和泉 拓
「まずは今回の参戦に当たり、多大なるご援助を頂いたiRCタイヤ様、スポンサー企業様、個人的に支援頂いた友人の皆様にお礼申し上げます。レース結果として期待された成果を上げる事が出来ず、申し訳ございません。
ですが、僕個人としての感想は、今回のTKO参戦及びグレンヘレンでの取材協力まで含めた一連のプロジェクトは、失敗だったとは考えておりません。確かに、ゲコタ及びiRCブランドをTKOのレースを通じてアピールするという主目的は達成されなかった訳ですが、その他に得るものが大きかったと感じております。
まず、TKOのレースに関してですが、主催者と濃密にコミュニケーションを取る事が出来(4×4でコース案内までしてくれました)、レース運営の方向、規模、留意点などを教えて頂く事が出来ましたし、とても歓迎してくれる雰囲気を肌で感じて来ました。また、他社製タイヤですが、実際にレースを走らせて頂く事により、コースの難易度、気候、土質、他のアベレージライダーのレベル、トップライダーのレベルを文字通り身体で知る事が出来ました。これはいくら日本で情報収集しても得られない貴重な情報だと思います。
更に、BETA USAチームの好意で他社の「TKO用に開発したタイヤ」を装着してレースをする事が出来た為、他社のタイヤ制作の考え方やグリップする場所、しない場所、ゲコタとの相違点の情報を収集する事が出来ました。
次に火曜日にLA,グレンヘレンで行われたDIRT BIKE MAGAZINEの取材協力です。現地のオフロードバイク事情を、現地のコースで、現地の方に案内して貰いながら紹介して頂くという贅沢な体験をして参りました。オフロード専門誌の編集者としての知識と、ライダーとしての豊富な経験からのお話はとても為になる事が多く、今後のタイヤ開発の大きなヒントとなりました。
北米の中でもカリフォルニア周辺の土質、地形は特殊で、求められるタイヤ性能もある意味ガラパゴス化してるように感じました。しかし、そのガラパゴスが余りに大きい為、シェアを伸ばすにはここカリフォルニアでの使用も視野に入れて開発する必要がある事を強く感じました。僕自身、英語が出来るという程では無いのですが、バイクに関しての話ならある程度理解する事は出来ますので、先方ライダーの仰るゲコタのフィーリングをライダーとして翻訳して開発チームに伝える事が出来、多少なりとも役に立ったかと思います。
元々、僕自身は自分を過大評価しないので「世界のトップライダーをやっつけるぞ!」という気合と言うか、ある意味気負いはありませんでした。特に、今回はエースの高橋選手が同行する為、僕はレースに全てをぶつけるという役をせずに済み、積極的に情報収集する事が出来ました。この情報の蓄積は、次期タイヤの開発時にかならず使える資産となる筈です。
成績で皆様のご期待に応えられなかった以上、また、多大なる予算を費やして頂いたiRCタイヤ様のお力になれるよう、皆が欲しがる新型タイヤの開発に関わらせて頂いて、恩返しをさせて頂きたくお願い致します。今回のプロジェクトに関わって頂いた全ての皆様、ご応援頂いた全ての皆様、本当にありがとうございました」